冬は,バード・ウォッチングに最適な季節である。木々から葉が落ちて,枝でさえずったりする小鳥をつぶさに見ることができる。小鳥たちの姿の美しさや多様性を追いかけていると楽しい時間を過ごせる。
私が,バード・ウォッチングを自分の趣味と意識するようになったのは,平成3年(1991年)ころのことである。大阪家庭裁判所の親子合宿のプロジェクトチームで家庭裁判所調査官(以下「調査官」という。)として活動をしていた。
親子合宿は,水越峠(大阪府河内長野市から奈良県御所(ごせ)市へと抜ける峠)近くのOさんご夫妻のご自宅にある山小屋で数組の親子で合宿をして,親子関係を改善する働きかけをしようとした企画であった。周辺は金剛山と大和葛城山があり,大阪府としては稀な自然環境が整ったところである。
親子合宿の本実施を前に,環境教育に熱心に取り組んでいた西田真哉さん(当時聖マーガレット生涯教育研究所長)を招いて,調査官が「ネイチャーゲーム」(原題は“Sharing nature with children”)を中心とした体験学習を体験して親子合宿のプログラムに取り入れようというものだった。そのような「試行合宿」中に,国蝶であるオオムラサキがクヌギの木にやってくるなどの大発見があって,参加した調査官にとっても自然の素晴らしさを実体験した。全員が自然に対して心が解放されているようで,自然への感受性が高まっていた。
その最終日に,私は周辺の木に黒白の横波形縞をした雀くらいの大きさの鳥がいるのを見つけた。自宅に帰ってからハンディな野鳥図鑑を購入して,掲載されている写真を見てみると,その小鳥は「コゲラ」という名前で,泣き声が「ギーギー」というものだということや人間の生活圏の近くにいることもあるなどと書かれていた。それ以降,双眼鏡を購入して,近所の公園などを散策してバード・ウォッチングをするようになった。大和葛城山を皆で登って,自分の体力が落ちしていることに直面したことで,休日に里山を散策することも始めるようになった。その間に,ギーギーという独特の泣き声を手がかりに縞模様の「コゲラ」を発見しては「ギーちゃん」などと命名をして,楽しんだりしていた。これがバード・ウォッチングを自分の趣味と思うようになった切っ掛けである。
さて,自律と依存の狭間で揺れる思春期・青年期の人がいる家庭に,このような自然を背景としたプログラムで家族が時間を共にすることによって,親子関係に変化が起こる可能性があり,しかも穏やかで安全な働きかけである。自然環境を家族関係の緩衝材として取り入れるというのは,それぞれの言動が柔軟なものになって,共に行動することがしやすくなっていた徴候が観察されていた。「ほどよい距離感と温かさ」がキーポイントではなかったかと今になって思う。
これは,他の集団などでも同様で,ほどよい距離感と温かさが共存できれば,そこにはアサーティブなコミュニケーションが生まれて,協働が成り立つという可能性がある。それぞれが個人として自律して,互いに尊重しあっているということが,協働のためのアサーション・トレーニングや人間関係トレーニングで重要なことなのではないかと,バード・ウォッチングしながら考えたりしている。
「コゲラ」
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